紹介 オススメの「場の量子論」の教科書

タイトル:An Introduction to Quantum Field Theory

著者:Michael E. Peskin, Daniel V. Schuroeder

出版社:Westview Press

出版年:1995

 初学者向けの場の量子論の本として有名な本。 場の量子論の初等的な計算や内容を一通り網羅しているのでページ数が800ページ越えとなっているが、その分の価値はある。 説明は基本的に丁寧だが、最初のほうでは厳密な議論よりも直観に頼った話が多いので、ところどころ論理が怪しいところがあるが、 後半で改めてちゃんと議論して疑問を回収するつくりになっている。 割と早い段階でS行列の計算をFaynmanダイアグラムを使ってできるようになるので実用的な本でもある。 素粒子や原子核分野の論文を読む前に基礎知識として読んでおくことをおすすめする。 タイミングとしては1,2冊目に読むのをおすすめするが、自分の経験から言うと、 あらかじめ日本語の本で場の量子論についてなんとなく知っておくか、 より簡単な本(例えばA. Zeeの本)をやってから読むのがいいかもしれない。


タイトル:QUANTUM FIELD THEORY 2nd edition

著者:Lewis H. Ryder

出版社:CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS

出版年:1996

 こちらも初学者向けの場の量子論の本。 序盤でぐんと対称性の議論だけから重要な運動方程式などが導けることを示しているのが特徴的である。 経路積分量子化について比較的詳しいが、議論が飛んでいるところもあるので注意が必要である。 内容的には繰り込みや自発的対称性の破れといった一般的なトピックを含むがQCDは入っていない。 また、後半でトポロジカル場の理論や超対称性についての記述があるのが珍しい感じ。 ページ数も500ページ以内なので1,2冊目におススメできる。


タイトル:QUNANTUM FIELD THEORY 2nd edition

著者:Frantz Mandl, Graham Shaw

出版社:John Wiley & Sons, Ltd

出版年:2010

 初学者向けの場の量子論の教科書。 量子電磁気学についての説明が多くある。 第1章で電磁場についての説明があり、量子電磁気学から始まっているので場の量子論のモチベーションを理解しやすい。 ページ数は500ページ以内に収まっているが扱っている範囲は広く、 QCDや電弱相互作用についても章を割いての言及がある。 1冊目か2冊目にもお勧めできる本になっている。


タイトル:場の量子論 不変性と自由場を中心にして

著者:坂本眞人

出版社:裳華房

出版年:2014

 日本語の場の量子論の本では、おそらくもっとも本格的かつ初学者にも読みやすい本。 全体を通して、ラグランジアンの変換に対する不変性を軸にして話が展開される。 解析力学を学んできた人にとってはこのやり方はかなりわかりやすい。 同時に、物理学における不変性の重要さを再認識するに違いない。 場の量子化がメインになっていて、途中の計算も省略が少なくて読みやすい。 また、なぜ場を扱うのかといったモチベーションの話もしているので初学者にとってうれしい構成となっている。 具体的な摂動計算などは下で説明する2巻に載っている。


タイトル:場の量子論(II)ファインマングラフと繰り込みを中心にして

著者:坂本眞人

出版社:裳華房

出版年:2020

 読みやすいことで定評がある場の量子論の本の第二巻。 摂動計算の方法と対称性の自発的破れ、繰り込みをメインに扱っている。 日本語の本でここまでまとまった説明がある本は少ない。 その分、500ページ越えの読みごたえがある感じになっている。 1巻と合わせると900ページくらいになるので、なかなか大変だが、日本語で読めるので負担は少なめだと思う。 ただし、QCDや電弱相互作用の理論、量子重力や共形場、超対称性といった内容は含まれないので、 そういう発展的な内容が知りたいときは他の本を読む必要がある。


タイトル:ジー先生の場の量子論 基礎編

著者:Anthony Zee 著, 原田恒司, 筒井泉 訳

出版社:丸善出版

出版年:2020

 初学者向けに書かれた場の量子論の本の日本語版。 もとの本は"Quantum Field Theory in a Nutshell"という名前で出版されている。 日本語化されるにあたって、前半部分だけになっているので注意。 計算しながらしっかり説明するというよりかは、概念的な理解がしやすいようにたとえ話や図を多く入れながら進んでいく。 確かに読みやすいが、この本だけでは具体的な計算ができるようにならないので、他のある程度まとまった分量の本も読む必要がある。 内容は広く浅くといった感じで、全体を概観できるので1冊目におススメできる。



タイトル:新版 演習 場の量子論

著者:柏太郎

出版社:サイエンス社

出版年:2006

 場の量子論では珍しい、演習問題に特化した本。 問題を解きながら、学習を進めることができる。 しっかり解説があるのもうれしい。 内容は広く浅く、といった感じだがゲージ場までカバーしている。 より深い内容やQCDなどの進んだ内容を知りたい場合は他の分厚い本を読む必要がある。 初学者が1冊目の本を読みながら、基礎的なことについて問題演習で理解を深める、といった使い方がおすすめ。 こちらの記事でも紹介済み。


タイトル:場の量子論 - 摂動計算の基礎 -

著者:日置善郎

出版社:吉岡書店

出版年:2005

 場の量子論の摂動計算で具体的な過程の微分断面積を計算することに特化した本。 分厚い本を読むのがしんどい人でも具体的な計算方法を習得することができる。 場の理論の計算は煩雑になることが多いが、途中の式変形も丁寧に書いてあるので読みやすい。 また、よく出てくる関係式を付録でまとめてくれているので、辞書としても使いやすい。 意外と知られていないかもしれないが良書だと思う。


タイトル:現代物理学の基礎としての場の量子論

著者:磯暁

出版社:共立出版

出版年:2015

 一般的な場の量子論の教科書では扱われることの少ないコヒーレント状態やスクイーズ変換が1章で出てくるのが印象的な本。 非相対論的、相対論的にかかわらず、場の量子論が関係するトピックを現象ベースで取り上げているので面白い。 例えば、BCS理論やGinzburg-Landau理論が出てくる章もあれば、後ろのほうでは対称性とゲージ場の量子化も扱っている。 分量的にもそこまで分厚くないので。場の量子論全般についてザックリ知りたい初学者におススメできると思う。 個人的には修士課程のときのゼミで輪講に使ったので思い出深い一冊になっている。


タイトル:Quantum Field Theory

著者:Mark Srendnicki

出版社:CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS

出版年:2007

 よくある場の量子論とは構成が異なっていて、扱う粒子のスピンごとに章立てをしている。 場の理論の歴史的な発展を追うというよりは、論理的にかつ効率的に場の量子論を初学者がわかりやすいように作ることを目指している。 序文では独学で読もうとする人に対するアドバイスなどもあって丁寧な印象がある(1人で読むより誰かと輪読することや、繰り返し読むことなど)。 また、粒子のスピンごとの構成なので、一般的な場の量子論の本だと後のほうに出てくる経路積分による定式化などが結構前のほうに出てくる。 簡単な例で一通り計算技術を学びたいときなどにいいかもしれない。


タイトル:QUANTUM FIELD THEORY

著者:Claude Itzykson, Jean-Bernard Zuber

出版社:DOVER Publications, Inc.

出版年:2005

 もともとの本は1980年に出版されていたが絶版になったのでDoverから再出版された本。 古典場の記述から始めて、それらを量子化する形で話が進む。 実はあまり詳しく読めていないが、多くの場の量子論の本で扱うような繰り込みや自発的対称性の破れといった豊富なトピックを含んでいる。 より現代的なPeskinやMandleの本とはまた違った切り口が得られるかもしれない。 自分の英語力が低いからかもしれないが、個人的にはPeskinのほうが文章が読みやすく感じた。


タイトル:ゲージ場の量子論 I, II

著者:九後汰一郎

出版社:培風館

出版年:1989

 ゲージ場の量子論について、とても詳しく書いてある本。 詳しい分、内容はむずかしめに感じた。途中の議論なども一回読んでスッと頭に入ってこないことが多いので、自分である程度補完できる計算力が必要である。 具体的な過程の微分断面積の計算はなく、ゲージ場の量子論の定式化についてメインに書かれている。 他の本でゲージ場の部分を読んでいてわからないことがあったら本書を参考にするものいいかもしれない。 ちなみに本書の前書きでは「大学3,4粘性でも十分理解できる」であったり、「場の量子論は確かに進んだレベルの学問であるけれども、難しいものではない」といった記述があるが、 個人的にはまだこれらの感覚に共感できる領域に至っていない。


タイトル:場の量子論

著者:中西襄

出版社:培風館

出版年:1975

 2023年12月現在では絶版になっている場の量子論の教科書。 強い相互作用や弱い相互作用などのゲージ理論については記述はないが、量子電磁気学について詳しい記述がある。 他の本にないような詳しいトピックを扱っていることもあるので一読の価値がある。 量子電磁気学の勉強をする際は手元に置いておきたい一冊である。


タイトル:量子場を学ぶための場の解析力学入門

著者:高橋康

出版社:講談社サイエンティフィック

出版年:2005

 場の量子論の大家による、場の解析力学にテーマしぼった珍しい本。 この著者のシリーズ全般に言えることだが、蛇足や余談の話がおもしろい。 計算を追うのが面倒なところもあるが、わりかし丁寧に式変形を書いてくれているのでフォローしやすい。 場の変換性とか定式化の細かいところで気になったところがあった時は本書を見るのがおすすめできる。


タイトル:古典場から量子場への道

著者:高橋康

出版社:講談社サイエンティフィック

出版年:2021

 こちらも場の量子論の大家による場そのものを扱った珍しい本。 古典場が話のメインになっていて、近接作用の考え方や、場の運動方程式、場と物質といった面白そうなテーマを扱っている。 古典場を量子化するときの困難や、場を扱う時の気持ち的なお話も多いので読んでいて楽しい。 メインで読むというよりは、他の本の息抜きとして読むのがおすすめ。 別の記事でも紹介している。


タイトル:場の量子論

著者:David McMahon 著, 富岡竜太 訳

出版社:プレアデス出版

出版年:2015

 "Quantum Field Theory in A Nutshell"のように初学者向けに書かれた場の量子論の本である。 最初に素粒子物理学について概観した後に、場の解析力学や群論などの必要な道具を説明した後、スカラー場やディラック場といったお決まりの感じで進んでいく。 コンパクトながら、最後の章では超対称性について記述があるのが特徴的だと思う。 前書きでは「多くの場の量子論の教科書は読めたものではない」と豪語しており、そういった状況を改善するために、初学者向けに丁寧に解説することを重視している。 実際、途中の式変形は丁寧で、飛躍も少ないので議論を追いやすく、おススメできる。


タイトル:基礎物理から理解するゲージ理論

著者:川村嘉春

出版社:サイエンス社

出版年:2017

 素粒子の標準模型は場の量子論の言葉で表され、素粒子間に働く相互作用はゲージ場なので、標準模型を理解するにはゲージ場の量子論を理解する必要がある。 本書は標準模型のラグランジアンを最初に提示し、各行がどんな意味を持っているのかを読み解いていこうというスタンスで書かれている。 全体的な分量も少ないので、サクッと理解したいときにおススメできる。 本書を読んでから、より詳しい九後汰一郎さんの「ゲージ場の量子論」を読んでみるのもいいかもしれない。


タイトル:QUANTUM THEORY OF MANY-PARTICLE SYSTEMS

著者:Alexander L. Fetter, John Dirk Walecka

出版社:DOVER Publications, Inc.

出版年:2003

 ここで上げている場の量子論の本の多くは相対論的な場の量子論だが、本書は非相対論的な場の量子論を扱っている。 なので、素粒子物理というよりは物性向けの場の量子論になっている。 Bose系とFermi系のそれぞれで多粒子系の基礎的な性質を議論している。 序盤で基礎的な内容を説明し、後半の応用編では超流動や核子の多体系について議論している。 原子核物理などの論文でよく使われるような手法なども載っているので勉強になる。


タイトル:THE QUANTUM THEORY OF FIELDS

著者:Steaven Weinberg

出版社:Cambridge University Press

出版年:1995

 全部で3巻ある場の量子論の古典的名著。 すべて足すと1000ページを超える分量なので読み通すにはかなりの根気が必要になる。 私もまだ読めていないのでいつか読みたい。 それだけの分量があるのでたいていの内容はカバーしているが、初学者には向かない本だと思う。 前振りが長く、200ページくらい読み進めないと自由場の量子化までたどり着かない。 初めに読むのはもう少し薄い本か、実用的なPeskinのような本にしておくのがいい。 この本は一通り場の量子論を学んだあとで辞書的に使うか、全体を俯瞰したいときに読むといいと思う。


タイトル:Quantum Electrodynamics

著者:V. B. Berestetskii, E. M. Lifshitz, L. P. Pitaevskii

出版社: Elsevier Ltd.

出版年:1982

 物理学専攻の学生ならたいていの人が知っているLandauの理論物理学教程シリーズの中で、特に量子電磁気学を扱っている本。 理論物理学教程の製作途中でLandau本人は亡くなってしまったので、本書の執筆にはかかわっていない。 量子電磁気学がメインの本で600ページ越えというボリュームがあり、 詳しいのは確かだがシリーズを通して難解なことでも有名なので、ある程度は自分でで文脈を補完できる能力が必要になる。 こちらも1冊目にはおススメできないが、量子電磁気学の勉強をするときに辞書代わりに置いておくと心強い本だと思う。


ページTOPに戻る