Caldeira-Leggettモデルでのマスター方程式の導出

ここでは量子開放系のモデルとして知られるCaldeira-Leggettモデルを使って,注目系に対するマスター方程式を導出することを試みる. 計算には前回の記事の結果を使うので詳細はそちらを参照のこと.

有効作用の計算とマスター方程式

前回の記事で影響汎関数の計算が長かったので、これまでの流れを簡単におさらいしておく. まず,考えている系全体は(無限個の調和振動子系)+(ポテンシャル中の1粒子系)とし,その相互作用項の形は互いの座標について線形なものを想定していたのだった. 最終的に環境の効果を取り込んだ注目系のマスター方程式が欲しかったので,密度行列を考え,経路積分表示した後に環境変数の積分を実行した(影響汎関数の計算).

計算をまとめると注目系の換算密度行列は以下のようにまとめられた.

\begin{align} \rho^S_t(\bm{x}, \bm{x}^{\prime} ) &= \int_{\bar{x},\bar{x}^{\prime}} \rho^S _0(\bar{x}, \bar{x}^{\prime}) \int\mathcal{D}x \mathcal{D}x^{\prime} \exp{iW[x, x^{\prime}]}, \label{system_rho} \end{align}

右辺の$W$が有効作用である.これを改めて書くと

\begin{align} W\ldk x , x^{\prime} \rdk &= \int^t_0du L_S-L_S^{\prime}-c\dot{x}_+(u)x_-(u) + ick_BT x^2_-(u) \\ &= \int^t_0du \ltk -\frac{m}{2}\ddot{x}_+(u) - V^{\prime}(x_+) -c\dot{x}_+(u) + ick_BT x_-(u) \rtk x_-(u) \label{clmodel_W} \end{align}

となるので (\ref{system_rho}) の両辺を時間 $t$ で微分して

\begin{align} \partial_t\rho^S_t(\bm{x}, \bm{x}^{\prime}) &= \ltk L_S-L_S^{\prime}-c\dot{x}_+(t)x_-(t) + ick_BT x^2_-(t) \rtk \rho^S_t(\bm{x}, \bm{x}^{\prime}) \\ &= \ltk -(H_S-H_S^{\prime}) +(p\dot{x}-p^{\prime}\dot{x}^{\prime}) -c\dot{x}_+(t)x_-(t) + ick_BT x^2_-(t) \rtk \rho^S_t(\bm{x}, \bm{x}^{\prime}) \end{align}

が得られる. これは換算密度行列要素に対するマスター方程式であり,この方程式を使って物理量の期待値を求めることもできるが,ここではこれ以上は計算しない.

CLモデルでマスター方程式を導出する試みはCaldeira, Leggettの論文(A. O. Caldeira and A. J. Leggett, Path integral approach to quantum Brownian motion, Physica A 121(3), 587-616 (1983))も含めて多くの先行研究がある. CaldeiraとLeggettは先行研究で可解なハミルトニアンから出発して高温極限で上記のようなマスター方程式を導いた.

その後,他の研究者たちによって,このマスター方程式の適用範囲の解析や高温極限を使わずにすべての温度領域を扱えるマスター方程式の導出の試みがなされた. 高温近似の範囲では有効作用が時間について局所的になるので計算が簡単であるが,この近似が使えないときは工夫が必要である.

また,今回導いたマスター方程式は初期条件の設定によっては密度行列要素が負の値をとることがあるという事実が指摘されているので,その解決策も研究されている. 例えば密度行列の正値性が保証されているLindblad方程式と同じ形のマスター方程式を導出する方法が研究されたりしている. このあたりの動向について,もっと詳しく勉強したい読者はZurekのレビュー(W. H. Zurek, Decoherence, einselection, and the quantum origins of the classical, Rev. Mod. Phys. 75, 715-775 (2003)) が参考になるかもしれない.


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