スピン系の経路積分

スピン系の経路積分はスピンコヒーレント状態を使って表すことができる.スピンの固有状態を使わない理由は,経路積分を構成するために連続的な表現がほしいからである.以下ではまずスピンコヒーレント状態について説明する.

スピンコヒーレント状態|gは以下の性質を示す.

(1)SU(2)|gg|=aI, (a=const.)

またスピンコヒーレント状態によるスピンの期待値n=g|s|gを計算する. Campbell-Baker-Hausdorffの公式を使って

eiϕsisjeiϕsi=sjiϕ[si,sj]+12(iϕ)2[si[si,sj]]+=sjiϕ(iϵijmsm)+12(iϕ)2(ϵijmϵimlsl)+=sjiϕ(iϵijmsm)+12(iϕ)2(δjlsl)+(2)=sjcosϕ+ϵijmsmsinϕ

という関係が得られる.ただし,角運動量の交換関係[si,sj]=iϵijkskを使った. これより

ni=g(t)|si|g(t)=|eiψs3eiθs2eiϕs3sieiϕs3eiθs2eiψs3|=|eiθs2eiϕs3sieiϕs3eiθs2|=|eiθs2(sicosϕϵ3iksksinϕ)eiθs2|=|eiθs2sieiθs2|cosϕ|eiθs2skeiθs2|ϵ3iksinϕ=|(sicosθϵ2iksinskθ)|cosϕ|(skcosθϵ2kksksinθ)|ϵ3iksinϕ=|si|cosθcosϕ|sk|ϵ2iksinθcosϕ(3)|sk|ϵ3ikcosθsinϕ+|sk|ϵ2kkϵ3iksinθsinϕ

となるので,それぞれの成分を計算すると

n1=|s1|cosθcosϕ|sk|ϵ21ksinθcosϕ|sk|ϵ31kcosθsinϕ+|sk|ϵ2kkϵ31ksinθsinϕ=|s3|ϵ213sinθcosϕ(4)=12sinθcosϕn2=|s2|cosθcosϕ|sk|ϵ22ksinθcosϕ|sk|ϵ32kcosθsinϕ+|sk|ϵ2kkϵ32ksinθsinϕ=|s3|ϵ213ϵ321sinθsinϕ(5)=12sinθsinϕn3=|eiψs3eiθs2eiϕs3s3eiϕs3eiθs2eiψs3|=|eiθs2s3eiθs2|=|(s3cosθ+ϵ231s1sinθ)|=12cosθ

となる.よって,まとめると

(6)n=12(sinθcosϕ,sinθsinϕ,cosθ)

と書けるので,このnの運動は大きさ1/2のベクトルがつくる球面上の運動に相当する.

次に経路積分表示する際に現れるtg|gを計算しておく.

tg|g=|(tg)g|=|(t(eiϕs3eiθs2eiψs3))g|=|(itϕs3g)g|+|(eiϕs3(itθs2)eiθs2eiψs3)g|(7)+|(eiϕs3eiθs2(itψs3)eiψs3)g|

となるのでそれぞれの項を計算すると

(1st term)=|(itϕs3g)g|=i(tϕ)|gs3g|(8)=i(tϕ)12cosθ(2nd term)=|[eiϕs3(itθs2)eiθs2eiψs3]g|=i(tθ)|eiθs2s2eiϕs3eiϕs3eiθs2|=i(tθ)|s2|(9)=0(3rd term)=|[eiϕs3eiθs2(itψs3)eiψs3]g|=i(tψ)|s3eiθs2eiϕs3eiϕs3eiθs2|(10)=i2tψ

となる.まとめると

(11)tg|g=i2[(tϕ)cosθ+tψ]

と表せる.

次に具体的なスピン系を考えて,遷移振幅の経路積分表示をする.簡単のために磁場中の1/2スピン系H=sBを考える.ここで磁場はB=(0,0,B)であるとする.したがってスピンの量子化軸はz方向である. 遷移振幅を

(12)K(g,g¯;t,0)=g|eiHt|g¯

としてスピンコヒーレント状態の完全性を使って経路積分表示すると

(13)K(g,g¯;t,0)=Dgexp{i0tdu{n(s)B+12[ϕ˙(u)cosθ(u)+ψ˙(u)]}}

となる. ここで境界条件をg¯=g(0),g=g(t)とした.


ページTOPに戻る