QCDのラグランジアン

ここでは自由なクォークのラグランジアン

(1)Lq=f=1nq¯f(x)(iγμμmf)qf(x)

がSU(3)ゲージ変換のもとで不変であるとすると,強い相互作用を記述するQCDのラグランジアンを導くことができることを簡単に示す.また,和はフレーバーについての和で,カラーの添え字は省略している.

まず,クォーク場qf(x)のカラーついての 局所的SU(3)C変換

(2)qf(x)qf(x)=exp[ia=18θa(x)Λa2]qf(x)(3)U(x)qf(x)

を考える.ただし,θa(x)は任意の積分可能な実関数,Λaはゲルマン行列である. ここで,物理法則が局所的なゲージ変換の下で不変である,というゲージ原理を課すと,今の場合のラグランジアンもこの変換のもとで不変になるはずである. そこで実際に調べてみると

LqLq=f=1nq¯f(x)(iγμμmf)qf(x)=f=1n(U(x)qf(x))γ0(iγμμmf)U(x)qf(x)=f=1nq¯f(x)U(x)U(x)(iγμμmf)qf(x)+f=1nq¯f(x)U(x)iγμ[μU(x)]qf(x)(4)=Lqf=1nq¯f(x)γμU(x)a=18[μθa(x)]λa2U(x)qf(x)

となって,不変にはなっていない.ただしUのユニタリー性を用いた. このままではゲージ原理と矛盾してしまうので,この余分な項を消すために新たにゲージ場Gμa(x)を導入して微分を共変微分

(5)Dμμ+iga=18Gμa(x)λa2

に置き換える.このGμa(x)はグルオン場と呼ばれるゲージ場である. よってラグランジアンを改めて書くと,

(6)LqG=f=1nq¯f(x)(iγμDμmf)qf(x)

となる.これによってクォークとグルオンの相互作用項が追加されたことが分かる.

さらにラグランジアンがSU(3)cのもとで不変であるために, Dμqf(x)

(7)Dμqf(x)Dμqf(x)=U(x)Dμqf(x)

というゲージ共変性を持つ必要があるので

Dμqf(x)=[μ+iga=18Gμa(x)λa2]qf(x)=[μ+iga=18Gμa(x)λa2]U(x)qf(x)(8)=U(x)[μ+iga=18Gμa(x)λa2]qf(x)

である.よって

a=18Gμa(x)λa2U(x)qf(x)+ig[μU(x)]qf(x)=U(x)a=18Gμa(x)λa2qf(x)(9)a=18Gμa(x)λa2=U(x)a=18Gμa(x)λa2U1(x)igU(x)[μU1(x)]

と書けるので,グルオンのゲージ変換性が分かる. ただし[μU]U1=U[μU1] を用いた. また,共変微分間の交換関係を考えると

[Dμ,Dν]=[μ+iga=18Gμa(x)λa2,ν+igb=18Gνb(x)λb2]=igb=18μGνb(x)λb2iga=18νGμa(x)λa2+(ig)2(a=18Gμa(x)λa2)(b=18Gνb(x)λb2)(ig)2(b=18Gνb(x)λb2)(a=18Gμa(x)λa2)=igb=18[μGνb(x)νGμa(x)]λa2+(ig)2a,b=18Gμa(x)Gνb(x)[λa2,λb2]=igb=18[μGνb(x)νGμa(x)]λa2+i(ig)2a,b,c=18fabcGμa(x)Gνb(x)λc2=iga=18(μGνb(x)νGμa(x)ga,b,c=18fabcGμb(x)Gνc(x))λa2(10)iga=18Gμνaλa2

と表せる.ただし

(11)[λa2,λb2]=ic=18fabcλc2

となることを用いた.ここでfabcは三つの添え字に関して完全反対称な SU(3)のリー代数の構造定数である. ここで定義したGμνaは量子電磁気学(QED)からの類推でによって,グルオン場の強さを表す. このGμνaに対するゲージ変換も Gμaの変換性から

a=18Gμνaλa2a=18Gμνaλa2(12)=U(x)a=18Gμνaλa2U1(x)

となる. ここで,量子電磁気学の場合では光子場の運動項は電磁場テンソルを用いて 14FμνFμνで表されることが知られている.これはこの項をラグランジアンに入れたとき,ゲージ不変性とローレンツ不変性をもち,場と場の微分の二次の項を持ってほしいからである.今の強い相互作用の理論は量子電磁気学の拡張から得られるので,この場合のグルオン場は光子場の拡張になっているはずである.なのでグルオン場の運動項も 14GμνaGaμνという形で表すことにする. 実際,

14aGμνaGaμν=14a,bδa,bGμνaGbμν=12a,btr(λa2λb2)GμνaGbμν(13)=12tr(abGμνaλa2Gbμνλb2)

となり,最後の式はGμνaのゲージ変換性から,明らかにゲージ不変である. よってこの項は確かににゲージ不変である.

まとめるとSU(3)cのもとで不変なラグランジアンは,

(14)LqG=f=1nq¯f(x)(iγμDμmf)qf(x)14GμνaGaμν

となる.これにCP不変性を破るが運動方程式には影響しないθ項と呼ばれる

(15)Lθ=θ64π2a=18ϵμνλρGμνaGλρa

を加えて

(16)LQCD=f=1nq¯f(x)(iγμDμmf)qf(x)14GμνaGaμν+θ64π2a=18ϵμνλρGμνaGλρa

となる.このラグランジアンによる場の量子論がQCDである. よって,QCDは非可換ゲージ理論の一種である.

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