純粋状態と混合状態

量子力学における純粋状態と混合状態について説明します. 普通の量子力学の教科書で扱うのが純粋状態と呼ばれる状態で,1つのケットベクトルで表せる状態のことをいいます. 一方,混合状態というのはベクトルで表される状態に統計的な重みがついているものです.これは量子統計の本などを読むと出てくることが多いです.この2つの概念は初めてみた人にはわかりにくいので,できるだけわかりやすく解説していこうと思います.

まず純粋状態と混合状態がどう違うのかを明らかにするために密度行列を導入すると説明がスムーズです. ある量子系を考えます.このときの密度行列を

\begin{align} \rho \equiv \sum_i w_i \ket{i} \bra{i} \end{align}

と定義します.ここで$w_i$は

\begin{align} & \sum_i w_i =1 \\ & 0 \leq w_i \leq 1 \end{align}

をみたす数で,各状態に対応するものであるとします. また,$\ket{i}_{i=1,2,\ldots, n}$は規格化されているとします. このとき上の密度行列は$\ket{i}$という状態である確率が$w_i$であるということを表しています.

この密度行列を導入すると純粋状態と混合状態の区別は簡単にできて$w_i =1 $のときが純粋状態,$w_i \neq 1$のときが混合状態となります. これがどういうことをいっているのかを確かめるために密度行列要素を考えてみましょう.

まず系が純粋状態のとき$w_i=1$なので密度行列の右辺の和は一項しかありません.なのでこれを

\begin{align} \rho_{pure}= \ket{\psi} \bra{\psi} \end{align}

と書きます.これを位置演算子の固有状態ではさむと

\begin{align} \rho_{pure} (x) &= \langle x |\psi \rangle \langle \psi | x \rangle \\ &= | \langle \psi |x \rangle |^2 \end{align}

となる.これはちょうど状態が$\ket{\psi}$である状態の座標表示での確率密度になっています. このように確率密度と密接な関係があるので 上で定義した$\rho$は密度行列と呼ばれるのである(たぶんそう。まちがってたらすいません。).

これに対して混合状態のときの密度行列要素を考えてみると

\begin{align} \rho (x) &= \sum_i w_i \langle x | i \rangle \langle i | x \rangle \\ &= \sum_i w_i | \langle i | x \rangle |^2 \end{align}

と表せる.これをみると系の状態がこのような混合状態にあるとき, その確率密度は単純に一つの$| \braket{i | x} |^2$で表すことはできず,その和で表されるということがわかります. このとき重み$w_i$はそれぞれの状態$\ket{i}$に対する統計的な確率と解釈できます. 例えば$i=1,2$で$w_1=1/2$, $w_2=1/2$であるとき

\begin{align} \rho (x) = \frac{1}{2} | \langle 1 | x \rangle |^2 + \frac{1}{2} | \langle 2 | x \rangle |^2 \end{align}

と表されるますが,これは状態$\ket{1}$をとる統計的な確率と状態$\ket{2}$をとる統計的な確率がそれぞれ$\frac{1}{2}$であることを表していると考えられます.このような意味で混合状態と呼ばれます.量子力学的な重ね合わせと混同しやすいので注意が必要です.

おまけとして,このような状態で物理量$A$の期待値を計算するとどのようになるのかもみておきましょう. 密度行列を使うと物理量の期待値はトレースを使って

\begin{align} \langle A \rangle = Tr (\rho A) \end{align}

と表されます.これを使うと純粋状態のときの期待値は座標表示で

\begin{align} \langle A \rangle &= Tr (\rho_{pure} A) \\ &= \int dx \bra{x} \rho_{pure} A \ket{x} \\ &= \int dx \langle x | \psi \rangle \bra{\psi} A \ket{x} \end{align}

となります.一方,混合状態のときは

\begin{align} \langle A \rangle &= Tr (\rho A) \\ &= \int dx \bra{x} \rho A \ket{x} \\ &= \sum_i w_i \int dx \langle x | i \rangle \bra{i} A \ket{x} \end{align}

と書けます.

まとめると以上のことからわかるのは,以下の2つです.

1. ある状態での確率密度を考えたときに一つの状態で書ければ純粋状態,複数の状態が必要なら混合状態ということ.
2. 混合状態の場合,確率密度を求めるにしても物理量の期待値を求めるにしても. 統計的な重み$w_i$についての情報がないとそれらを求めることができないということ.

混合状態は純粋状態の一般化になっていて,我々がふだん量子力学で扱っているのは簡単な場合であるということです.

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