素励起の考え方

量子多体系を扱う上で素励起の概念は欠かせないのだけど,その考え方がいまいちわかりにくかったので今わかる範囲でまとめておこうと思います. ここでは具体的な例を計算してみるということはせずに, まずその考え方を整理していきます.

まずはじめに素励起とは何かということを端的に述べておくと,素励起は物質の低エネルギー励起を量子化したものです. そもそも物質というのはたくさんの粒子が集まってできているのですが,その物質の性質を調べるには一般に外場に対する物質の応答をみることになります. たとえば,磁場や電場を書けたときにどのような振る舞いを示すかということです. このときの応答は物質内部の粒子たちと外場との相互作用による内部構造の乱れによるものです.この外場があまり強くなければ,それによる乱れも小さくて済むので,ある一つの量に対する乱れは線形だと考えることができます.つまり外場に対する応答として複数の量に対する乱れがあるとして,それらの間の結合は無視できるだろうということです.

なので,このときの物質全体としての乱れは個々の量の乱れの重ね合わせとして表現することができるはずです. ここで量子論における粒子と波動の等価性からこの乱れは粒子としてもみなせることになります. この粒子が素励起と呼ばれるものです. このときに無視した乱れの高次の項は素励起間の相互作用として解釈されます.

一つ注意しておかなければならないのは,素励起は電子などの本物の素粒子と違って物質内でしか存在できないということです.それさえ忘れなければ,素励起間の相互作用も考えることもできるので普通の粒子と同じように扱えます. 粒子の種類には一般的にフェルミ統計に従うフェルミオンとボーズ統計に従うボゾンがあるわけですが素励起も系を構成する粒子の性質を引き継ぎます.素励起は低エネルギー励起について成り立つ概念なので,フェルミ系とボーズ系の基底状態付近での振る舞いの違いによってその励起状態の扱いにも違いが生じてくるということです.

考える系がフェルミオンの多体系の場合,低エネルギー領域ではフェルミ面を形成しています.そこで粒子が少しだけ励起するとき,フェルミ面近傍の粒子がひとつだけ励起して粒子-ホールのペアが生成されます.これを素励起の一種として個別励起といいます. 粒子間に相互作用がない場合は個別励起だけですが,粒子間に相互作用があるとある粒子の励起がそのまわりの粒子に伝わって集団励起と呼ばれる素励起が生じることがあります. したがってフェルミ系で起こりうる素励起は個別励起と集団励起のに種類となります.

次にボゾンの多体系の場合を考えます.ボーズ系は一般に低エネルギーでボーズ-アインシュタイン凝縮を起こして,一つの量子状態をほぼすべての粒子が占有します. このときの低エネルギー励起を考えると,ある一つの粒子が励起するという描像ではなくて,系全体のさざなみのような集団励起描像になります. なので,ボーズ系で起こりうる素励起は集団励起だけになります.

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