書評 量子力学I, II

著者:猪木慶治, 河合光

出版社:講談社

本書は東京大学で行われた量子力学の講義をもとに書かれた、量子力学の入門テキストです。 本書の特色は他の量子力学の本と比べて例題と演習問題が豊富である点です。 物理学の本から理論を学ぶには、そこで議論されている論理の流れを追うことが必須となります。

そのためには計算を追うことも必要で、実際に手を動かす場面も多いです。 この本では本文中に例題と問題が頻繁に登場し、読み進めていくだけでこのプロセスを実行することになるので、 他の物理の本を読む練習にもなります。

また、章末には演習問題が配置されており、理解を深めることを助けてくれます。 すべての問題に対して、詳細な解答がついていることも初学者にとっては非常にありがたいです。 少し考えてもわからない問題に対しては解答を利用して学習を進めることができます。

本の構成は1,2巻に分かれていて、それぞれ1巻では基礎的な内容、 2巻では具体的な問題に対する近似法などが扱われています。 具体的には、1巻で前期量子論をそこそこにして、早速シュレディンガー方程式に触れることができるのも 早く量子力学を学びたい初学者にとっては都合がよいです。

その後、座標表示のシュレディンガー方程式を使って一次元系のポテンシャル問題や水素原子の問題など、 オーソドックスな内容にふれることができます。 さらにブラケット記号を使用した、状態ベクトルのスマートな記述を確認し、 座標表示はヒルベルト空間の基底を座標演算子の固有状態にとったということに過ぎず、 問題によって人間が便利な基底を使ってよいことに気付きます。 また、角運動量の理論で軌道角運動量の他にスピン角運動量について、導入とその性質について議論します。

次に2巻では磁場中の荷電粒子の扱いや、摂動論とWKB近似といった近似法、 同種粒子や散乱問題の扱い方を議論しています。 第13章以降はやや発展的な内容で原子核や素粒子に対するモデルの紹介や電磁場の量子化、ディラック方程式、 経路積分を扱っています。

本書は問題が豊富なので、量子力学の初学者だけでなく理解を深めたい人が演習書として読むこともできます。 具体的に手を動かすことは実践的な知識をつける意味で非常に有益で、将来研究をしたい学部生にとってもおすすめの一冊です。 また、全体を通して誤植が少ないのも嬉しいです。 ただ、所々で発展的な内容も含んでいるので、最初の一冊というよりは、 簡単な本(例えば小出昭一郎著「量子力学I, II」など)を一通り読んでから挑戦するのが効率的かもしれません。


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