書評 ボーズ・アインシュタイン凝縮
著者:C. J. Pethick, H. Smith
訳者:町田一成
出版社:吉岡書店
本書はボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)という題名ですが、特に極低温の原子集団系である冷却原子系におけるBECについての本です。物理をやったことのある人はよくご存知かもしれませんが、BECとはある特定の種類の粒子集団が起こす非自明な量子現象のことです。
この世界を構成する粒子は大まかにボソンとフェルミオンという2種類にわけることができて、それぞれ異なる性質を持つことが知られています。この性質は粒子の多体系を考えるときに重要で、ボソンは一つの量子状態にいくつでも同じ種類の粒子が入ることができる一方でフェルミオンは一つの量子状態に一つの粒子しか入ることができません。ここで特に、あるボソンの集団である特定の温度以下になると最もエネルギーの低い状態にほとんどすべての粒子が入ってしまう現象をBECといいます。これは本書でも解説されている冷却原子気体の実験によって初めて実験的に観測されました。
本書では相互作用しないボソンの多体系、理想ボース気体の性質から始まり、冷却原子系の実験で扱われる原子の構造や性質、冷却原子系を実験的に構成するために系を冷却する方法、といった冷却原子系の基礎知識の確認をすることができるので、この冷却原子系の分野について興味をもっている初学者やこれから研究を始める方におすすめできます。また、本題のBECの記述に関しても、現象論と微視的理論の両方の観点から定式化が示されており、それぞれのつながりも確認することができるので非常に勉強になります。
発展的な例として、回転系でのBECと超流動性やトラップがある場合、他成分混合系やフェルミオンの冷却原子気体の性質に関する議論などもあり、内容は豊富ですので研究をなさっている方も新しい発見や先行研究の確認の役に立つかもしれません。ただ、注意すべき点は数式の誤植が少し多いところと、訳書なので日本語の説明が変になっているところがあることです。しかしながら、内容が豊富かつ比較的わかりやすく書かれているので個人的にはこの分野に関連する研究をするなら、とりあえず一冊もっておいて損はないかと思います。
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