紹介 オススメの「量子力学」の教科書
量子力学を勉強する大学生や院生向けに、オススメの量子力学の本をまとめてみました。 内容は筆者の読書遍歴によっているところが多分にありますので、万人受けするかどうかは自明ではありません。 また、ここでは量子力学の理解を深めたい、計算ができるようになりたい、 院試の対策をしたい、といった用途を想定しているので、 いわゆる啓蒙書的な文庫本などは含めていません。
タイトル:量子力学Ⅰ、Ⅱ
著者:小出昭一郎
出版社:裳華房
出版年:1990
学び始めのころや最初の1冊にオススメできる本。 とにかく量子力学の本を読んでみたいけど難しすぎるのは手が出ないかも、という方でも読めると思う。 量子力学の成り立ちからシュレディンガー方程式、水素原子の記述、摂動論といった、一般的な流れでコンパクトにまとまっている。 座標表示の記述が多いので、より一般的な視点で深く学びたい人は後述する猪木・川合さんの量子力学がいい。 あまり1行ずつ導出するよりかはザックリ全体像をつかむ読み方をしておいて、詳しいところは他の本を読むのもおススメできる。 最近は新装版が出ているので新規で購入するならそちらがいいかもしれない。
タイトル:量子力学Ⅰ、Ⅱ
著者:猪木、川合
出版社:講談社
出版年:1994
解説と演習が一体になった量子力学の良書。 最初から読み進めていくだけで、自然と手を動かしながら量子力学を学べる。 座標表示の波動関数を使った記述と、より本質的なブラケット記法を使った記述を両方カバーできる。 大学の講義などでは時間の都合で細かい計算をしてくれないことも多いので、本書と並行しながら勉強するといい。 本書を読んで、「そういうことだったのか!」と思うことも多かった。 また、Ⅱ巻まで含めると600ページになるが、それだけで相対論的量子力学や量子電磁気学の入門的なところまで勉強できるのもいい。 例題と演習問題が豊富なので院試対策の基礎作りにも使える。
タイトル:現代の量子力学 上、下 第2版
著者:J. J. Sakurai(桜井明夫 訳)
出版社:吉岡書店
出版年:2015
こちらも量子力学の名著。 量子力学の歴史的な話を飛ばして、いきなりシュテルン‐ゲルラッハの実験から入る。 そこでさっそくスピンの振る舞いをブラケットを使って学べる。 スピンは純粋に量子的な物理量なので、手っ取り早く量子効果を体感したい方にはいいかもしれない。 ただ、力学や解析力学だけを勉強してきた人がいきなり本書を読むと面食らうかもしれないので注意する。 なんとなく量子力学の全体像が分かってきたときの、2冊目以降におススメできる本。 演習問題は豊富で、別冊で解凍付きの問題集が出版されている。 また、近似法や散乱理論も丁寧に解説してくれているので、 論文を読んでいて基礎的なところで詰まったときに本書を読んでみると解決策が見えるかもしれない。 上巻のほうは2024年時点で第3版が出ているらしい。
タイトル:詳解 量子力学演習
著者:後藤憲一、西山敏之、山本邦夫、望月和子、神吉健、興地斐夫
出版社:共立出版株式社
出版年:1982
量子力学の問題集。 各節ごとに短い説明があるが、中身としてはほとんど問題とその解説になっている。 問題数が多く、良問もあるので学期末試験や院試対策におススメできる。 一般的な量子力学の本に載っているたいていのトピックはカバーできる。 応用編では、量子科学や量子生物学といった変わり種も扱っている。
タイトル:入門 現代の量子力学
著者:堀田昌寛
出版社:講談社
出版年:2021
現代的な記述を重視した、比較的最近のテキスト。 先述したJ.J.Sakuraiの本と同じように、シュテルン-ゲルラッハの実験から始まる。 しかし説明はやさしめで読みやすいので、J.J.Sakuraiが読めなかった人にもオススメできる。 量子測定や量子情報の記述があるのも本書の特徴といえる。 他の量子力学の本を読んで、物理量の測定について疑問が出たときに読んでみると理解が深まる。 量子情報や量子力学基礎論を勉強したい人にもオススメの本。
タイトル:量子力学Ⅰ、Ⅱ 第2版
著者:朝永振一郎
出版社:みすず書房
出版年:2014
現代的な本とは打って変わって、量子力学の歴史的な背景や成り立ちを扱った本。 著者は量子力学の誕生初期から研究にかかわっていた方なので、そのあたりの記述は信頼できる。 あまりほかの本に書いてないような話があるので読んでいておもしろいが、初めの1冊には少し遠回りな感じがある。 実際、Ⅱ巻まで進めないとシュレディンガー方程式が出てこない。 ひととおり量子力学を学んだあとで、歴史的背景に興味を持ったときにおススメできる。
タイトル:ファインマン物理学 量子力学
著者:R. P. Feynman(砂川重信 訳)
出版社:岩波書店
出版年:1979
有名なファインマン物理学のうちの1冊で、量子力学を扱っている巻。 量子力学の本質的な部分について、少ない数式で説明している珍しい本である。 もともとはファインマンの講義を文字起こししたものなので語り口調が読みやすく、 「そんな説明のやり方もあるのか!」と感動がある本。 とはいえ、これを読んだからといって計算ができるようにはならないのでひととおり量子力学を読んだ後のほうが 本書のありがたみがわかるはず。 とくに量子力学の理解を深めたいときや人に説明する練習をしたいときにおススメできる。
タイトル:量子力学と経路積分
著者:R. P. Feynman、A. R. Hibbs(北原和夫 訳)
出版社:みすず書房
出版年:1995
経路積分についてく詳しく説明している良書。 2重スリットの話から経路積分の発想に至る議論や、調和振動子系の経路積分での扱いなど、 普通の量子力学の本には書いて内容ことが多くて勉強になる。 遷移振幅の経路積分表示は他の本の後ろのほうに載っているところで勉強したが、 実際にどんな問題に適用できるのか、ということに興味がある人にもオススメできる。
タイトル:The Principles of Quantum Mechanics, 4th edition
著者:P. A. M. Dirac
出版社:みすず書房
出版年:1963
量子力学を作った人の一人であるDiracの歴史的名著。 重ね合わせの原理から話が始まり、割と早い段階でブラケット記号も導入される。 英語なので人を選ぶかもしれないが、歴史的な記法や現論文に近い雰囲気の話を読んでみたい人にはおススメできる。 また、本書で量子力学を勉強していると言えば、たいていは驚かれるので、かっこをつけたいときにおススメできるかも。
タイトル:ランダウ・リフシッツ 量子力学1、2
著者:L. D. Landau、E. M. Lifshitz(佐々木健、好村慈洋 訳)
出版社:東京図書株式会社
出版年:1967
有名なランダウリフシッツ理論物理学教程のうちの非相対論的量子力学の部分。 残念ながら日本語版は2024年現在で絶版となっているが、大学の図書館などで読むことができる。 一般的な量子力学の本で扱っているトピックに加えて、実際の量子現象の議論が豊富なので 本書を読み通せる力があるなら、そのまま論文が書けるかもしれない。 他の理論物理教程と同様に論理が簡潔で誤植も少ないのはいいが、 内容的に高度なので1冊目には難しい可能性がある。 ランダウのほかの巻を読んだことがある人や、ある程度量子力学を勉強した人が理解を深めたいときにオススメできる。 どうしても購入したい場合は古本屋をさがすとあることがある。 また、英語版はAmazonなどで購入することができる。
タイトル:相対論的量子力学
著者:川村嘉春
出版社:裳華房
出版年:2012
これまでの本とは違って、相対論的な量子力学を扱った良本。 相対論的量子力学といったときは、たいては特殊相対論を考慮した量子力学のことなので注意する。 一般的な量子力学をひととおり勉強してから、場の量子論の勉強をするまでのつなぎとして優秀な本。 ロジックが丁寧でわかりやすく、クーロン散乱などの具体例や計算も扱っているので手を動かしながら読むのにオススメできる。 量子力学の1歩進んだ理解をしたい人が読むといいかも。
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